診療所の患者さん管理システム

 

医療法人ハマダ眼科

濱田恒一


1はじめに

当院で加療中の緑内障患者さんが一年半来院せず、再来したときには片眼の視力が指数弁になっていた事故がありました。この患者さんが必要な定期的経過観察、治療を受けなかったことの責任は、患者さん個人にあったとともに、診療を担当していた私にもあったと考えております。このような事故を未然に防ぐためには、患者さんへの十分な情報の提供が必要です。しかしながら、診療所での情報提供だけでは患者さんの管理に限界もあり、自動化された患者さんの管理が必要だとの結論になりました。当科に導入した患者さん管理システム DoctorQube (D-Qube) 1)  につき報告するとともに、類似システムと比較したいと考えます。

2 運用での患者さん管理

予約患者さんが来院しなければ、来院を促す連絡をするというような患者さん管理は、自動化しなくても短期間であればできます。当科でも、緑内障患者さんに対して、自動化なしで患者さん管理をしようとしたことがありました。しかしながら、患者さんは診療所の業務時間中には在宅しておらず、業務時間中の職場に定期検診を勧める連絡をすることはプライバシー上避けなければなりませんから、限られた数の患者さんに定期検診を勧める連絡をすることすら大変な作業になりました。結局この形での患者さん管理を継続することはできませんでした。

3 患者さん管理のシステム化(図1)

診療所で患者さん管理をシステム化するには、IVR (Interactive Voice Response;対話型音声自動応答)や、 インターネット、i-mode を連絡方法として使用します。IVRを使って、患者さんに電話をし、予約を確認し、 定期検診を促し、その場で必要があれば予約変更ができるようにします。インターネット、i-mode を日々利用されている方には、E-mailを用いた予約確認、定期検診連絡や、Web site を介した、予約、予約変更手段を提供します。予約忘れによるキャンセルを未然に防ぐ、予約日前日の予約確認連絡や、期日前に定期検診を勧める連絡を提供するとともに、無断キャンセルとなった患者さんに再来を促す連絡も提供します。

システム化に際して重要な点は、自動化しなくては患者さんを管理することができないことを、患者さん自身に理解していただくことです。患者さんに、病気に関する理解を深めてもらい、治療あるいは定期検診が必要であることを説明し、その上で、予約忘れや定期検診忘れによる不幸な事故を防ぐための方法として、患者さん管理システムの必要性を説明します。(表1)

4 D-Qube の特徴

1. LAN 対応(図2)

 入力や参照を、受付だけでなく、診療室、検査室、患者さんへの説明室、コンタクト室の担当者が行えるようにするため、LAN 対応システム を採用しました。

2.IVRによる予約対応

自動音声認識、自動音声合成で自動的に患者さんに電話をし、予約を確認し、 定期検診を促し、その場で予約変更できるというような システム です。もちろん24時間自動予約受付も可能です。無味乾燥なコンピューターの合成音声のみでの対応を避けるため、想定され、多用される受け答えにはサンプリング された肉声を使います。

3.インターネット、i-modeによる予約対応

インターネット、i-mode で Web site からの予約、予約の変更ができます。

インターネット上の Web server はデータベースを持たず、Web 予約で生じた情報を院内のD-Qube が処理し、D-Qubeのデータベースを更新すると同時に答えを Web server に返します。予約情報をインターネットに露出させることなくsecurity を保ちつつ運用しています。

4. 磁気リライトカード2)診察券による受診履歴管理(図3)

 磁気リライトカード診察券による、D-Qube へのcheck in check out により、患者さんの受診履歴を自動生成させます。予約時間からの遅れ、在院時間などが自動的にデータベースに保存され、来院患者さんの一覧表に表示されます。

5. 磁気リライトカード診察券への次回予約日、最終来院日の印字

 磁気リライトカード診察券は、感熱印字に対応しており、次回予約日、最終来院日が印字されます。300回書き換え可能です。

6. 電子カルテ(ドクターソフト3)との連動

 電子カルテに病歴の表書きが入力されると、即時にD-Qube の方にも入力される連同用モジュールを使用しています。

 

5 平成13年12月10日の現状

9月25日にD-Qube を実運用してから2ヶ月を経過して、導入前に35% の予約率が60% と改善しました。予約確認連絡、定期検診連絡、キャンセルした患者さんへの連絡の効果に関しては、いまだ運用期間が短く、患者さんに了解を取りながらシステムに登録しているところであり、評価できる段階にありません。

 

6 類似システムとの比較

1. IVR、 インターネット、i-mode を用いた患者さん管理システム(表2)

D-Qube はこの範疇に入ります。そのほか同様なシステムには、診療予約システム4)や、診療予約受付システム5) があります。D-Qube は、IVR、インターネット、

i-mode を使って、予約をきめ細かく管理するとともに、受診履歴を患者さんへの接遇に反映させることにより、予約を順守してもらうように誘導すると共に、患者さんを管理するシステムとして機能しています。

2. IVRのみを用いた24時間自動電話予約システムとの比較(表3)

自動予約システム(Dr うける君II6)LXMATE7)、テレリザーブ電話予約システム8)I-Hart 9) などがこの範疇に入ります。

この範疇の予約システムは、予約確認連絡を提供しません。予約確認連絡を提供しない予約システムは、予約忘れによる無断キャンセルを防げません。このため、若葉台クリニック10)では、当日予約のみを受け付けることにより、キャンセルを防いでいます。眼科など定期検診患者さんが多い診療科では、予約確認連絡が有用と考えられます。

3. ASP(application service provider) 型との比較(表4)

Web 診療予約システム11) がこの範疇に入ります。

ASP 型の24時間予約システムは、インターネット、 i-mode E-mailで予約システムを動かしています。Server が業者管理であり、安定したサービスの提供が期待できること、初期投資が少なくてすむことが利点と考えられます。ASP 型の多くが自動電話予約に対応しておらず、利用する患者さんが限定されることが問題となります。カスタマイズに限界があります。

 

7 D-Qube の運用

実際に使用するに当たり、予約、予約の変更に要する時間は、電話の自動音声応答より、インターネット、 i-mode による操作の方が遙かに短時間です。また、当院から患者さんへの予約確認の場合にしても、患者さんの指定した時間帯にその患者さんが電話を受けられるかどうかは確実でなく、E-mail での対応がより確実であると考えられます。患者さんを患者さん管理システムに導入するのには、IVRからだと考えますが、実際にはインターネット、i-mode E-mail での対応が主体となると考えます。

職員による電話予約対応から、24時間対話型音声自動対応へ、さらに、インターネット、i-mode E-mail による自動対応に移行していくというのが、このシステムの運用の方向性だと考えます。

 

8 どのシステムを選択するか(表5)

どのシステムを選択するかは、それぞれの診療所の状況により異なります。当院のように、継続的な診療を必要とする患者さんが多い診療所ではD-Qube のような患者さん管理システムが選択となります。小児科の若葉台クリニック10)のように急患が多い施設では、患者さん管理機能を持たない単純な予約システムを、当日予約で使うほうが良い選択と考えられえます。まずは試してみたいというような診療所では、初期投資が少なくてすみ、かつサーバーの管理を必要としない、ASP 型の予約システムの選択になると考えます。

 

9 まとめ

患者さん管理システムの必要性を述べると共に、当科で運用している患者さん管理システムD-Qubeについて特徴などを報告し、類似システムと比較しました。

 


参考文献

1)    http://www.doctorqube.com      

2)    http://www.kme.panasonic.co.jp/magdiv/kisyu/r3000.html     

3)    http://209.130.59.131/home/

4)    http://www.voistage.com/products/osy02/osy02.htm

5)    http://wsv.hnes.co.jp/solution/will/

6)    http://www.ntt-me.co.jp/ukerukun/

7)    http://www.tohoyk.co.jp/rep/lx/lx1.html

8)    http://www.dot-m.co.jp/I_tele.htm

9)    http://www.heart-line.co.jp/

10)              http://www.wakabadai-clinic.or.jp/

11)              http://www.din.or.jp/~toa-ad/medical/yoyaku/index01.html


図の説明

 

図1

患者さん管理システム(D-Qube)

患者さんに適した方法( IVR、インターネット、i-mode )で、診療時間の予約が、いつでも、どこでも可能です。患者さんが希望すれば、診療所からIVRE-mail で、予約前日の予約確認連絡、定期検診を勧める連絡、中途中断者に受診を勧める連絡を提供します。インターネット上の Web server はデータベースを持たず、Web 予約で生じた情報をD-Qube が処理し、D-Qubeのデータベースを更新すると同時に答えを Web server に返します。

 

図2

院内LAN

必要な場所で、患者さん管理システム、電子カルテ、画像ファイリングシステムが利用できます。

 

図3 

患者一覧画面 

その日の来院予定患者さん、来院患者さんを表示します。予約時間、予約時間からの遅れ、キャンセル率、前回の待ち時間、来院時間、来院から診療開始までの時間、退院時間、次回予約、予約確認連絡の設定の有無を表示します。
表1 患者さん管理システムと紙の台帳による予約との比較

 

患者さん管理システム

 

紙の台帳による予約

キャンセルした患者さんへの対応が容易

キャンセルした患者さんへの対応が困難

キャンセルを防ぐ予約確認連絡が容易

キャンセルを防ぐ予約確認連絡が困難

定期検診連絡が容易

定期検診連絡が困難

診療所内の複数の場所での予約が可能

診療所内の複数の場所での予約が困難

受診履歴の蓄積が容易

受診履歴の蓄積が困難

受診履歴を基にした患者さん接遇が可能

受診履歴を基にした患者さん接遇が困難

初期投資が必要

初期投資が不要

自動化による人件費の軽減が見込める

運用に人件費を要する

 


表2 IVR (対話型音声自動応答)、 インターネット、i-mode を用いたシステム

 

製品名(メーカー)

特徴

価格

DoctorQube

(情報通信コンサルティング)

予約確認連絡など患者さん管理機能受診履歴のデータベース化

LAN対応

基本システム

\2,980,000

診療予約システム

(ロジカル株式会社)

音声自動認識による予約

音声認識タイプ\2,750,000

診療予約受付システム

NECソフトウェア北陸)

地方自治体の住民サービス用に体系化されたソリューションの一部

ソフトウェアのみ

\2,200,000

 


表3  24時間電話自動受付予約システム

 

製品名(メーカー)

特徴

価格

Drうける君II(NTT-ME)

200システム以上の導入実績

LAN 対応

音声認識タイプ

\2,300,000

LXMATE(東邦薬品株式会社)

外来自動受付機能

\2,980,000

テレリザーブ電話予約システム(株式会社 第一アウトソーシング東京)

予約時間、予約番号の選択が可能

\2,400,000

I-Hart

(株式会社ハートライン)

初期導入費が安価

LAN 対応

初期投資\298,000

管理費月 \25,000

 


表4 ASP(Application Service Provider) 型 予約システム

 

製品名(メーカー)

特徴

価格

Web 診療予約システム

(株式会社 トーア アド ネット)

導入費が安価

サーバー管理不要

初期費用 \50,000

管理費月 \28,800


表5 システム構成によるメリットとデメリット

 

システム構成

メリット

デメリット

電話自動応答、インターネット、

i-mode に対応

幅広い層の患者さんが利用

操作に時間を取らない

予約確認連絡に場所と時間を選ばない

システムが比較的高価

電話自動応答のみ対応

幅広い層の患者さんが利用

比較的安価

利用者の操作に時間がかかる

予約確認連絡に時間設定が必要

予約確認連絡未対応のシステムが多い

インターネットとi-modeに対応

操作に時間を取られない

予約確認連絡に場所と時間を選ばない

利用者が限定される

スタンドアローン

ネットワーク管理が不要

比較的安価

入力場所が限定される

受診履歴に基づいた患者さん接遇が困難

LAN対応

複数の場所からの入力が可能

受診履歴に基づいた患者さん接遇が可能

ネットワーク管理が必要

比較的高価

ASP

サーバー管理が不要

初期費用が比較的安価

初期設定が容易

インターネット、i-mode のみに対応するものが多い

電子カルテ、レセコンとの連動が困難

カスタマイズに限度がある

 

 


図1

 

 


図2

 


図3