診療所でのLinuxの活用

 

医療法人 ハマダ眼科

濱田恒一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 初めに

Linux というのは自由に再配布することのできる, Unix 系オペレーティングシステム(OS)の一つです。Linux を動かすことのできるアーキテクチャは x86, Motorola 68k, Digital Alpha, SPARC, Motorola PowerPC など多岐に渡ります。 Linux は本来 OS の中核となるカーネル(kernel)だけを指す名称ですが, Linux カーネルベースのシステム全体をさして Linuxと表現することもあります。1)

一般に Linux の配布においては, カーネルだけでなく数多くのコマンド類がバイナリ形式で付属しています。 これらをセットにして配布することによって, 実用に足る UNIX OS 環境を簡単に, そしてすばやく構築することができるわけです。 こういったソフトウェアのまとまりのことを 「ディストリビューション(distribution)」と呼んでおり, RedHat2)などさまざまな種類のものがあります。こんにち Linux は世界中で1000万人もの人々によって利用されています。 3)

当初 Linux はフィンランド Helsinki 大学の Linus Torvaldsによって作成されました。 1991 年 10 月 5 日, Linus は Linux 最初の「公式」バージョンである version 0.02 をアナウンスしました。 これ以降, 多くのプログラマが Linus の呼びかけに応え, Linux を今日のような機能の揃った OS へと作り上げる手助けをしていったのです。

Linux, open source というと、甘美な香りがします。なんか良さそうな感じがします。

みんなで協力して、みんなで使うものを作り上げる。そして、その果実をみんなで分け合う。医療業界で今Linux が注目されているのは、日医総研の online receipt computer advantage(ORCA) project が、Linux のディストリビューションの一つである Debian 4)を Server のOS として選択したからです。Open source の OS の上に open source の receipt soft を載せる。何となく良さそうで、適切な価格で流通しそうな感じがします。

Linux が広く医療業界に入ろうとしているこの時期に、3年半にわたりLinux を実用している医療者である私が、どのようにLinux を導入することになったか、その必然性を述べると共に、Linux とのつきあい方を述べてみたいと考えます

2 Linux との出会い

私は、3年半前からLinux を internet server として使い始め、2年前から診療業務に用いています。

Linux を導入することになった動機は、ほぼ4年前に自宅のインターネット使用時間が月に150時間になったことです。通信費を安くあげるためにOCNエコノミー5) が使えるようになると同時に、自宅にinternet server を置くことにしました。Linux ですと、一台でinternet server用の機能すべてがまかなえるので、internet server を導入するときに、Linux sever を使うと決めました。一番安いinternet server を探していると、Horizon Digital Enterprise 6)が世界で一番安いServer を提供しているというので、これを購入しました。このときのOS は Slackware 7) でした。このServer は2年間働き続けてくれました。電源のファンの軸ずれで異音がで始めたので、別のServer をRedHat 2)で立ち上げました。今は network の broadband 化でOCN エコノミーでは website の利用者には遅いサービスであり、また、gateway の管理が個人では迅速に対応できないことからセキュリティー上の問題となるため、rental server に移行しています。ただ、このinternet server の運用実績、2年に渡り一度のクラッキングだけで、ほぼダウンタイムなしという実績が、Linux を業務に使うきっかけとなりました。

3 Linux の診療所への導入のきっかけ

1998年の12月に友人からレセプトコンピューターの買い換えの相談があり、1999年1月末に医療業務統合システムを実運用している診療所を見学に行きました。8) このシステムが魅力的だったので、まず当院で先に導入し検証することにしました。ここで、データベースとして、Oracle 9) を使っていたのですが、ちょうど1999年3月にOracle for Linux の製品版が出荷され、WindowsNT 版が 20万円のところ、Linux 版が10万円で販売されていたので、これを使って運用る事にしました。このシステムの業者がLinux 版は使えないとのことで、それなら他の医療業務統合システムでOracle for Linux を使えるものはないかと探していたところ、doctor soft10)の存在を知り、試用し、実運用に持ち込みました。

4 Doctor Soft on Oracle for Linux(DRS on O4L) の導入 11)

Linux の setup に30分、Oracle の setup に二時間半を何度となく繰り返し、まずは自分でOracle for Linux のセットアップはできる状態になりました。その後、自宅のnetworkで一ヶ月間DRS on O4Lの動作を検証し、仕事場で一ヶ月間検証し、その後1999年8月から電子カルテ、DRS on O4Lの実運用を開始しました。サンヨーメディコムのレセコンの情報は、サンヨーメディコムが移植用データをCSV fileとして提供してくれましたので、約3万件の患者さんのデータを移植することができました。すべての情報を移植するのは、なかなか難しいので、患者さんの保険データ、最終来院日を移植しました。過去の紙カルテの参照に、最終来院日の移植ははずせません。まず、過去3ヶ月間、最終的には過去6ヶ月間の紙カルテの検査、薬歴を手仕事で移植しました。この過去データの移植は、再来患者さんの診療時間短縮に有効でした。十分にコストパーフォーマンスある作業です。2000年2月にOracle for Linux の大きなバグ修正と同時に、hard をより冗長性のあるものに置き換えました。このバグ修正は業者にも難しい程度のもので、このバグのせいで、Oracle と Linux の相性が悪いという評判が広がったようです。多くの実働していたOracle for Linux が このバグ修正時に壊れたといううわさ話があります。でも、決して相性が悪いわけではありません。Unix 版 Oracle をさわったことのある業者さんが少なかっただけです。Data は SCSI の RAID の 0 + 1 でスピードのための striping と 冗長性を高めるための mirror。Boot用 hard disk は処理スピードには関係ないので IDE の mirror としました。電源はdata に 2個、boot 用に 2個です。

5 ドクターソフト

ドクターソフトは、図1に示しますように、ごく普通の電子カルテです。特徴は、レセコンに電子カルテ部分が付け足された感じの商品で、レセコン部分の完成度は高く、しかも電子カルテ部分の使用者側の自由度が高いことです。電子カルテのtemplate部分に関しては、使用者が意図すれば、毎日でも変更していけます。理想的には、患者さんの症状によって、20程度のtemplate を使い分けるのが良いかと考えています。

薬剤の併用禁忌チェック、レセプト発行、保険者に対する請求書の自動打ち出し、処方箋の発行、領収書の発行、薬剤の在庫管理、患者さんの予約管理、簡易オーダリングシステムなどの機能を含んだ統合システムです。現在32,000症例のデータが蓄積されていますが、きわめて快適に動作しています。

6 Samba Server の導入

次にWindows 95 OSR2 に画像ファイリングシステムのデータを収納していたのですが、時に不安定になるので、これを Linux のSAMBA Server 12) に収納することにしました。Samba(「サンバ」と呼称します)は、UNIXおよびUNIX互換マシンをWindows NT互換のファイルサーバ/プリント・サーバにするオープン・ソース・ソフトウェアです。設定はSWAT12)あるいは HDE Linux controller6)等のブラウザーで設定できるソフトを用いると、見通しがつきやすいです。当方のSAMBA Server は画像用のServer なので、高速な書き込み読み出しが要求されます。そのため、data は SCSI Hard disk に収納することにしました。これに冗長性を高めるために、boot を IDE の mirror とし、ここにdata を自動定時backup し、IDE に置かれた backup data を テープにbackup する事にしました。SCSI hard disk が壊れても、IDE の data が使えます。IDE の片方が壊れても、mirror ですから、壊れた方を差し替えれば良いわけです。これも、電源を2重化しており、片方の電源が壊れれば警告音が鳴りますから、電源を差し替えれば良いのです。きわめて冗長性が高くしかも高速なシステムにできあがっています。

7 冗長性を高めるということ

ただ気を付けなければいけないのは、システムが大きくなれば、それだけ故障するということです。冗長性を高めるということは、同時に動く部品の数が増えますから、部品が2倍に増えれば、必然的に2倍故障します。ただ、故障したときに、壊れた部品を動かしながら置き換えれば良いので、機械を止めて初めから立て直す必要がないだけです。冗長性を高めてから、故障が多くなったと感じたら、それはそうなのだと思います。安全性を高めたのに故障が増えるのはおかしな話に聞こえますが、安全性を高めるためにシステムを大きくすればそれだけ故障は増えます。ただ故障しても、部品を置き換えれば、運用を継続できるのです。

安全を買うことは、安い買い物ではありませんし、楽しいことでもありません。新しい最先端のものは、CPU にしろ board にしろ 長時間わたる検証がされていません。少なくとも半年は待つべきだと考えています。DELで業務用のものとしてCPU スピードなどのスペックが個人用のものより低い PC が販売されています。これは、スピードよりも安定した動作を求めるユーザー向けの商品です。RAIDにしろ、冗長性を高めればスピードは遅くなります。半年前に発表された CPU を使えば必然的に処理速度は遅くなります。安全性を、速さを犠牲にすることで手に入れるという考え方です。

8 画像ファイリングシステム

導入しているメディネット13)は図2に示しますように、普通に見られる画像ファイリングシステムです。特徴は、単純な操作で、眼底写真、蛍光眼底写真、細隙灯写真、角膜内皮、角膜トポグラフィー、超音波所見などが取り込めることです。現在当科では、6,000症例分の40,000画像が保存されています。それでも高速に快適に動作しています。

9 Linux Server の運用

運用に関してですが、毎日テープにフルバックアップしており一ヶ月分をCD-R に焼いています。テープ、CD-Rに関しては、保存用のものを銀行の貸金庫に時系列で預けています。あまり過去のものを保存すると、本当に必要なものと、そうでもないものと玉石混合で保存することになるので、適当に間引いていきます。貸金庫のスペースがなくなってくれば間引くというようなもので、決まった運用法則に沿ったものではありません。貸金庫には、ドクターソフト用のテープとCD-R, 画像ファイリング用のテープ

そして、視野データ用のテープを保管しています。

10 Server の置き場所

狭い診療所の中でのServer の置き場所の問題があります。これは大きな問題です。熱の問題と、音の問題です。当診療所ではどのようにしているか。机の下に押し込んでいます。

机の下に押し込むと、ちょうど防音用のカバーをかぶせたような効果があります。あまり音が漏れてきません。じゃあ熱はどのようにするのか。それは、ファンです。脱気用のファンを使うのです。図3でわかりますように、ハマダ眼科のサーバーは、机の下に押し込まれています。電源6個、hard disk 9個がこの中に収納されています。これをほぼ一つの脱気用ファンで冷却しています。このファンをもので囲んで煙突のように使うのです。周りを囲まないと、このファンは効果がありません。でも、周りを囲むと、この一つのファンで高度の冷却効果を引き出せます。この置き方は、音の問題、熱の問題を同時に解決してくれます。診療所にはお勧めです。

11 最後に

Linux は初め取り組みにくいかもしれません。さわりだすと、いつも同じcharacter base の操作感が好ましくなってきます。Windows の操作が、version up ごとに変わってくるのに比べて、これを習得すれば、一生同じ操作が使えるという、修得意欲を提供してくれます。

Linux の導入を容易にする、 Linux を GUI で操作する Linux controller 6)の様なものもあります。ここからまず導入してみて、そのうちcharacter base の操作に移行するのも良い考え方です。私はこのパターンでした。

導入時にお薦めの本は、できるLinux サーバー RedHat 7 日本語対応14) と Linux コマンド & ツールりファレンス15)です。この二つがあれば、大概のことはこなせます。

まずは、Windows, Macintosh を使うように、Linux を明確な目的を持って使う。たぶん、クラッカーが横行している現時点では、internet server としてではなく、intranet server として最初に導入することになるのだと思います。まず NT Server の変わりにSamba Server12)として使ってみるか、あるいは、Cybozu16) のようなグループウェア用のサーバーとして使ってみることをお勧めします。そして、来るべきORCA project の一般化にそなえる。

ORCA を採用する、採用しないは別として、日本医師会が提供しようとしているものを正しく判断できる基盤を持つことは、これからの2−3年十分に労力に見合う利益のあることだと考えます。

Linux は Unix ですから、はじめは取っつきにくいと思います。初めから character base の操作感が好きな人が多いのであれば、Windows の大成功もなかったでしょう。Linux はUnix ですから、すばらしい無料のソフトが無数にあります。Linux は Unix ですから、それなりのノウハウを持った方のサポートがあれば、さらに幸せになれます。Internet での情報収集に飽きたら、適当なサポートを依頼されることをお勧めします。同じ時間であれば、医師は医療に時間をかけた方が、コストパーフォーマンスが良いのは当たり前です。私が、一生懸命Linux を勉強しても月に100万円の収入にはなりませんが、月にLinux で100万円を稼いでいる技術者を月に一日雇用することはできます。本物の技術者が提供してくれるノウハウは、診療所の生産性を飛躍的に高めてくれています。すべてを自分でやろうとはせず、自己責任で、適当な人材を適切な料金で使いながら、運用するというのがLinux の使い方だと考えています。ORCA project でも、医師個人が virtual private network を設定し、診療所に main、sub の Linux Debian Server を置き、local のBackup を含めた運用ができるとは考えていないと思います。診療所の近くの小さな業者 が、提供した労働の適正対価を受け取ることが、想定されているのだと思います。

Linux, open source というと、甘美な香りにしたってみませんか。Windows から解放された世界というのも良いものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

1)http://www.linux.or.jp/

2)http://www.redhat.com/

3)http://www.jpsa.or.jp/event/seminar/99lix1.htm

4)http://www.debian.org/

5)http://www.ocn.ne.jp/

6)http://www.hde.co.jp/

7) http://www.slackware.com/

8)http://www.medical-data.co.jp/

9)http://www.oracle.co.jp/

10)http://209.130.59.131/home/home.htm/

11) http://www.eye.or.jp/newpage110.htm/

12) http://www.samba.gr.jp/

13) http://homepage1.nifty.com/sun-com/

14) できるLinuxサーバー RedHat 7: 日本語版 対応: 辻 秀典、渡部高志、アクロバイト&インプレス書籍編集部、発行人 井芹 昌信、編集 大塚浩昭、株式会社 インプレス

15) Linux コマンド& ツールリファレンス: 平田 真一、牧野 岩、 発行者 林 徹也、発行所 エーアイ出版株式会社

16) http://cybosu.co.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図の説明

1

ドクターソフトの画面

普通の電子カルテの画面で、これといった特徴はない。

電子カルテ部分のtemplate が使用者により容易に変更できることが特徴である。

Template と自由記載、お絵かきが同時に可能な環境である。

 

2

画像ファイリングシステムの画面

普通の画像ファイリングシステムの画面で、これといった特徴はない。

単純な操作で、眼底、蛍光眼底、細隙灯、角膜内皮、角膜トポグラフィー、超音波画像が、

高速に取り込め、再生できる。

 

3

机の下のServer

電源6個、ハードディスク9本を収納しているが、脱気用のファン一つでほとんど熱の問題は生じない。

ファン使用のこつは、煙突の様に使用するため、周りを囲んでしまうことです。

机の下に押し込まれた形なので、音の問題も解決されている。